「はぁ……」
夕焼けの帰り道。
毎週通っている塾の見慣れた道。
少し古い電柱。
少し折れた街の電灯。
暮らしにハリがないの毎日。
学校での成績は悪くはないが
良くもないと言った平凡な少女。
親に言われて入らされた塾のテストは
今日も60点台。
そんな答案用紙を丸めながら
公園のゴミ箱へ向かった。
誰もいないはずの公園。
昔乗ったブランコがキィキィと鳴いている。
端の方のゴミ箱へ向かう途中
は現実では有り得ないような光景を目にする。
もうひとつの世界
*序章*
「…何…あれ…?」
足を止める。
持っていた用紙を堅く握り締め
目の前の光景に凝視する。
生暖かい風がの髪を揺らし
視界をはっきりと映させた。
公園の真ん中。
大きな影。
醜い
化け物。
「……ッ…!」
叫びそうになるのを堪える。
もしも見つかったら
命はない。
必死に口を抑え、気付かれていないことを確認する。
公園の草むらに身を潜め
その化け物を目を細めて見ていた。
すると
化け物の前に、長いひとつの影が現れた。
「…誰…?」
化け物がその存在に気付いた時には遅く、
もう既に昇華されている。
も何が起こったのか分からなかったが
人物が見えたときに
頭が回転した。
よりも一回りも二回りも長身で。
黒い着物のようなものを身に付けて。
サラサラの銀髪。
細く、何でも捕らえてしまいそうな目。
真っ白な羽織の背には
【三】と掲げられている。
伸びた刀を腰に戻し
その男は再び消えてしまった。
「……?何…今の人……」
「…ぼくのコトやろか。」
「ッ!?」
突然。
後ろから聞こえた声。
は驚いて振り返ると
先ほどまで公園の踊り場にいた男が。
口元を吊り上げ、まじまじとを見ている。
仁王立ちしているだけなのに
にとってかなりの威圧感が襲う。
ぎゅっとカバンを抱き、その男を睨み返す。
すると、
男は小さく笑いながら口を開いた。
「ぼくが見えてるん?」
「……うん…」
「そない睨んどいてや、キミには被害を加えないんやし」
「……?」
「死神っちゅーのを知っとる?」
「…死神…?」
「そや、ぼくみたいなコトを言うんやけど…」
その男がゆっくりと話し始める。
先ほどのモノは『虚』と言い
悪霊の最終形態のようなもので、
生き人を襲うことがあるということ。
それを退治したり、
成仏しきれていない霊をあの世へ送ることが
『死神』の仕事だということ。
初めは信じられない様子で聞いていたも
詳しく聞いていくと
信じられずにはいられないという顔をする。
男はまた喉の奥で笑いながら
に問い掛けた。
「…なぁ、キミは死神になる気ィないん?」
「……え…?」
「死神まで見えて、虚まで見える。しかも触れる上に喋れる…こんな逸材滅多におらんわぁ」
「……でも……」
「この現実がつまらないんやったら、オススメするで」
「……現実が……つまらない…?」
「そや、誰でも一度は感じるコトやろうけど。」
男はそう言うと、二ヤリと笑みを浮かべる。
は、未だに固く正座をしたまま動かない。
確かに
現実はつまらないし、ムカツクことがたくさんある。
学校もロクに行ってないし
友達も少ない。
勉強も面倒。
家族さえも面倒。
そう思うと
欠点がたくさん見えてくる。
は、少し困ったように唸る。
「別に、今決めなくてもえぇんやで?またこっちに来るんやし」
「……」
「そだ、名前だけでも教えてや」
「えっと…あたしは。」
「そっか、ちゃんな?」
「…!」
「ぼくは…」
「市丸……ギン………」
市丸が言おうとしたその時。
突然、の口から名前が上がった。
当然市丸は驚いたように口を閉ざす。
そして、も驚いたように目を見開く。
何故
自分が市丸の名が分かったのか。
それが
分からない。
「…何でぼくの名前知っとるん?」
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